自立支援・重度化防止に向けた取組の推進に対する声明

東京社会福祉士会は、本人の意思を無視した要介護度の改善や認定率の低下の目的化を助長する財政的インセンティブ(動機づけ)措置に反対します。そして、本人の意思を尊重した全人的(身体的・心理的・社会的)な自立支援を推進します。

介護保険制度の見直しのなかで 、保険者機能の強化等による自立支援・重度化防止に向けた取組の推進が重視され、市町村が自立支援・重度化防止に取り組むよう、財政的インセンティブの付与の規定の整備等が挙げられています。その財政的インセンティブの指標としては、未来投資会議等において要介護度が指標として挙げられています。 老化による身体的機能の低下は誰もが避けることができない現象であるにもかかわらず、要介護度のみを評価尺度としたインセンティブあるいはディスインセンティブ措置は、要介護状態を悪とする社会的偏見を生じさせるとともに、 本来必要となる適正なサービス利用を阻害する可能性を高めます。
全国展開が計画されている「介護予防のための地域ケア個別会議」は、本人が参加するサービス担当者会議とは別に、本人不在の状況において、本人に会ったことがない他職種や行政職員から介護支援専門員が助言を得ることで自立支援に資するケアプラン作成を行うとされる ものであり、「介護保険制度の見直しに関する意見」で指摘されている「利用者に対する過度な強制」になりえる可能性や本人の意思決定に反することが危惧されます。
「地域ケア会議」 は本来、 困難な状況にある事例への支援や地域共通の課題に対して、地域関係者が 多様なネットワークを構築しながら取り組んでいく「地域づくりの場」であることを改めて認識するべきです。
高齢社会のなかで健康増進、フレイル(虚弱)予防の地域づくりは大切な土台です。一方で、個人の自立支援に関しては、障害者権利条約の批准、障害者差別解消法の成立、成年後見制度利用促進法の成立、本人を中心とする認知症ケアの動向も含めて、高齢分野においても本人の意思の尊重について改めて重要視されています。介護保険法の目的でもある 個人の尊厳の保持という理念に則り、身体的自立のみではない、意思決定支援、多様な社会資源とのつながりの回復も含めた、多面的で丁寧な自立支援の意味に関する議論が様々な機会において必要です。
自立支援は本人の尊厳の保持を前提とした全人的な取り組みです。身体的自立に偏重した自立支援ではなく「尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう」支援する自立支援の展開が図られることを強く要望します。

2017年6月1日
公益社団法人東京社会福祉士会
会長 大輪典子